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本多勝一さんより、このサイトの閲覧者の皆様にメッセージをいただきました。


 本多勝一です。「歴史の事実 南京百人斬り競争」をご覧になっていかがでしたか。
 この裁判の本質については、「南京大虐殺を否定したい偽右翼集団の総攻撃を受けて」と題して「週刊金曜日」7月18日号に書きましたのでここに掲載させていただきます。
 この裁判を起こした側が、「百人斬り」を否定し、もって南京大虐殺を否定し、さらにはこの日本の侵略そのものを否定する立場に立っている以上、私個人の問題を超えて、この裁判は過去の事実にどのように向かい合うのかが問われているといえるでしょう。
 この「歴史の事実 南京百人斬り競争」を通じて、多くの方が裁判支援の輪に加わってくださることを願ってやみません。相手方(つまり提訴した侵略否定側)は前回傍聴者を大動員したのでクジ引きになりました。次回は大きな法廷になって傍聴席も広くなるようです。





 個人的なことから申しますと、一昨年、70歳になった年ですが、イラク取材に行ってきました。ウラン弾(注1)の調査にいったわけですね。今度のイラク戦争ではなくて、その前の湾岸戦争 ―― 私は第一次イラク戦争と言っていますけれども ―― の際に戦車などに打ち込まれたウラン弾を調べに行ったのです。そのルポはすでに単行本になっていますので、興味のある方は読んでいただければと思います(注2)。

 このウラン弾には、私は本当に腹が立っています。ウラン弾による放射能汚染はこれから何十億年、今後の地球の寿命と同じだけの年月、影響を及ぼし続けるとされているんですね。それが今度のイラク戦争でも、また盛大にばらまかれたわけです。これは人類どころか、生物全体に対する大変な犯罪です。

 それで個人的なことですが、このイラク取材の後半から体調を崩しまして、まあ、そういうことは学生時代のヒマラヤ行きなどの際にもあったことなんですが、しかし今度はこれがなかなか治らない。当初は体重が6キロも減ったんです。日本に帰ってきてから少しずつ良くはなったんですが、しかし、いまだに本調子になっていないんですね。考えてみたら、これはウラン弾の放射能のせいではないかと。

 ルポライターの鎌田慧さんが、「本多さん、60代になって本格的な海外取材のルポを書いている人なんていませんよ」と言われたので、いや、そんなことはないだろうと言ったら、「では誰がいるか」と逆に聞かれまして、たしかにそう聞かれて考えてみると、考えつかない。ルポは体力の必要な作業ですから、イラク取材の翌年(2003年)には私も71歳になりましたし、もう引退して悠々自適の生活を送ろうと考えていたんですね。何もしないというのではなく、もう書くことだけに専念しようと。ところが全然そうならない。

 まず私的な面では、2月か3月にかけて手の手術で入院しました。夏からは家族の経済事件でかなりの打撃を受けました。しかし問題は社会事件です。南京事件の被害者を「ニセモノ」だといって否定派が完敗した事件(李秀英さん名誉毀損裁判)がありましたけれども、完敗した向こうの弁護団が、今度はそっくり私に矛先を向けてきたわけですね。百人斬りはウソだ、それを書いたのは名誉毀損だと。

 しかし、これは彼らにとって完全にやぶへびになると思いますね。今回の裁判が起こされてから、次々に新しい証拠や証言が発掘されてきています。それに対して、原告側は何もしていない、捕虜虐殺はもちろん、報道されたような百人斬り競争そのものも、一人も斬らず、丸ごとウソだというんですね。これはちょっとすごいことですね。

 私らの世代ですと、中国から帰ってきた兵隊の「自慢話」を、少年時代の当時なんども聞いています。相手が青竜刀でこちらが日本刀で、という白兵戦なんて、もちろんありえませんよ。すべて後ろ手に縛って並べておいて斬るという話です。捕虜または一方的に怪しまれた者の虐殺。そういう話を私たちは直接聞いています。それが日常茶飯事だったわけです。

 法廷では彼らの動員勢力が傍聴席にやってきています。裁判官は法廷や傍聴席の雰囲気にも影響されるそうですので、ぜひ、傍聴でも応援していただきたいと思います。

 現在、自衛隊の海外出兵という問題が出ています。私は、これは戦前の南京攻略戦と同じほど重大な事件ではないかと思っています。もちろん日清戦争時代から中国への侵略が行なわれてきたわけですが、中国の中枢へ本格的に大軍隊が攻め込んだのは南京攻略戦です。あれから戦争は泥沼状態になっていった。最終的に日本の敗戦、八月一五日につながっていくわけです。アメリカとの戦争がなくても日本はやがて中国に敗れたでしょう。今度のイラク派兵は第二の八月一五日につながっていくのかもしれません。しかも今度はアメリカの傀儡として迎える八月一五日ですからもっと悪いと思います。

 ここまできてしまった最大の責任者は誰か。私は、マスコミがもっとも悪いと思いますね。今度の件でも、明白なイラク侵略戦争であるにもかかわらず、そこをどこもきちんと批判しないでしょう。「侵略」とすら書けない。

 しかし、こういうマスコミと同レベルで民衆のすべてが考えているかといえば、そんなことは決してない。だから、やはり自分たちで別のマスコミを作るしかない。それしかないでしょう。韓国にハンギョレという新聞があります。あれが一つの手本ですね。若い同志と日刊紙やインターネット新聞などの総合メディアを作っていきたい。その際には皆さんも同志として加わっていただければと思っております。



(注1)「劣化」ウラン弾と呼ばれているが、これはウラン鉱から濃縮ウランを作った残りの鉱石であって、放射能としては出続けているので、誤解を避けるため「ウラン弾」と呼んでいる。

(注2)本多勝一著『非常事態のイラクを行く』(朝日新聞社)


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