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東京地裁判決要旨

凡例

a.元号はすべて西暦標記に改めた
b.原告3名を極右ファシストによる政治利用の被害者と考え, 原告氏名は頭文字だけとした(原文は本名)
c.第3 当裁判所の判断(理由) (3) そこで, 本件摘示事実が, その重要な部分について一見して明白に虚偽であるといえるか否かについて検討するに
続く 丸付き数字を(i)(ii)(iii)で標記した.

以下, 転載転送歓迎


2003年(ワ)第9281号 謝罪広告等 請求事件

2005年8月23日午前11時 判決言渡 103号法廷

東京地裁 民事第6部 合議B係 (裁判長裁判官土肥章大[どいあきお], 裁判官田中寿生, 古市文孝)

原告 TT, EC, NM

被告 本多勝一, 柏書房(株), (株)朝日新聞社, (株)毎日新聞社

判決要旨

第1 裁判所の判断(主文)

原告らの請求をいずれも棄却する.

第2 事案の概要

被告株式会社毎日新聞社(以下「被告毎日」という.)の前身である東京日日新聞は, 1937年11月30日から同年12月13日まで, 4回にわたり, 故向井敏明少尉及び故野田毅少尉による, いわゆる「百人斬り競争」を掲載した(以下「本件日日記事」という.)

被告本多勝一(以下「被告本多」という.)は, 被告株式会社朝日新聞社(以下「被告朝日」という.)の出版に係る書籍(『中国の旅』,『南京への道』等)及び被告柏書房株式会社(以下「被告柏」という.)の出版に係る書籍(『南京大虐殺否定論13のウソ』)において, 上記「百人斬り競争」について言及した.

向井少尉の遺族である原告TT及び原告EC並びに野田少尉の遺族である原告NMは, 本件各書籍が, 両少尉の名誉を毀損するとともに, 原告らの名誉を毀損し, あるいは, 原告らのプライバシー権を侵害し, あるいは, 原告らの両少尉に対する敬愛追慕の情を侵害したとして, また, 本件日日記事について, 虚報であることが明らかとなったにもかかわらず, 被告毎日がそれを訂正せず, その不作為によって両少尉の名誉を毀損するとともに, 原告らの名誉を毀損し, あるいは, 原告らの両少尉に対する敬愛追慕の情を侵害したとして, 人格権侵害の不法行為に基づき, 被告朝日及び被告柏に対し, 本件各書籍の出版, 販売, 頒布の差し止めを求めるとともに, 被告らに対し, 謝罪広告の掲載及び損害賠償金の連帯支払を求めた.

第3 当裁判所の判断(理由)

1 被告本多, 被告柏及び被告朝日に対する請求について

(1) 本件各書籍のうち, 一部のものは, 両少尉を匿名で表記しているものの, 「M」「N」が本件日日記事において「百人斬り競争」を行ったと報じられていたこと及び南京裁判で死刑に処せられたことを具体的に摘示しており, 本件日日記事に掲載され, 南京裁判で処刑された「M」「N」は両少尉以外にいないものとみられるから, こ
の程度の記載であっても, 両少尉を十分特定し得るものと認められる.

(2) 本件各書籍には, 両少尉が, 上官から, 100人の中国人を先に殺した方に賞を出すという殺人ゲームをけしかけられ, 「百人斬り」「百五十人斬り」という殺人競争として実行に移し, 捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる「据えもの斬り」にするなどして殺害し, その結果, 南京裁判において死刑に処
せられたといった事実の摘示がなされていると認められるところ, 両少尉が,「百人斬り」と称される殺人競争において, 捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる「据えもの斬り」にするなどして殺害したとの事実は, いかに戦争中に行われた行為であるとはいえ, 両少尉が戦闘行為を超えた残虐な行為を行った人物であるとの
印象を与えるものであり, 両少尉の社会的評価を低下させる重大な事実であるといえる.

(3) そこで, 本件摘示事実が, その重要な部分について一見して明白に虚偽であるといえるか否かについて検討するに,

(i) 本件日日記事は, 両少尉が浅海記者ら新聞記者に「百人斬り競争」の話をしたことが契機となって連載されたものであり, その報道後, 野田少尉が「百人斬り競争」を認める発言を行っていたことも窺われるのであるから, 連載記事の行軍経路や殺人競争の具体的内容については, 虚偽, 誇張が含まれている可能性が全くないとはいえないものの, 両少尉が「百人斬り競争」を行ったこと自体が, 何ら事実に基づかない新聞記者の創作によるとまで認めることは困難であること, また

(ii) 被告本多において両少尉が捕虜を惨殺したことの論拠とする志々目彰らの著述内容についても, これを一概に虚偽であるということはできないこと, さらに

(iii) 「百人斬り競争」の話の真否に関しては, 現在に至るまで, 肯定,否定の見解が交錯し, 様々な著述がなされており, その歴史的評価は, 未だ, 定まっていない状況にあると考えられること,

以上の諸点に照らすと, 本件摘示事実が, 一見して明白に虚偽であるとまでは認めるに足りない.

(4) したがって, 被告本多, 被告柏及び被告朝日に対する各請求は認められない.

2 被告毎日に対する請求について

(1) 上記のとおり, 現時点において, 本件日日記事が虚偽であることが明らかになったとまで認めることはできないというべきであるから, 被告毎日に対する請求は認められない.

(2) さらに, 原告ら主張に係る不作為の継続的不法行為は, 被告毎日による本件日日記事の発表という先行する作為が違法であることを前提として, その違法状態を是正しないことをもって不法行為の内容としているものと認められるから, 当該作為である本件日日記事の発表が終了した日をもって民法724条後段の除籍期間の起算点とすべきであり, 本件日日記事の発表は, 遅くとも 1937年12月13日に終了しているから, 同日から 20年をはるかに超えた本訴提起の時点においては, 同条後段の除籍期間を経過したものであると認められる.