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「百人斬り」判決要旨+「一見して明白に虚偽」の意味 ー 渡辺

 「百人斬り」訴訟の判決要旨を転載いたします。
 この要旨は地裁が作成したものだと思います。しかし、かなり内容がジャンプしているところがあります。あくまでも要旨ですので細部にこだわらずに見てください。
 また、判決要旨には書かれていませんが、次のようなことが判決書に書かれています。

・被告は、原告の経歴、プライバシー、行状について言及していないので、原告に対する名誉毀損・プライバシー権侵害はない。
・死者の名誉等の人格権は一身専属権であり、死亡によって喪失する。
・相当年月を経て歴史事実として取上げる場合は、歴史探求の自由、表現の自由への慎重な配慮が必要。死者が生前有していた社会的評価の低下にかかわる摘示事実・論評・基礎事実の重要部分について、一見して明白に虚偽であるにもかかわらず、あえてこれを指摘した場合で、その内容・諸般の事情を総合的に考慮した上、なお遺族の敬愛追慕の情を受忍しがたいほどに侵害した場合に違法とすべきである。

 さて、指摘された事実が「一見して明白に虚偽である」かどうかが判断の境目ということになるわけです。そこで、「百人斬り競争」の真否について、判決理由の結語は「本件摘示事実が,一見して明白に虚偽であるとまでは認めるに足りない」という表現になるのです。
 東京地裁54.3.14「落日燃ゆ」訴訟の2審判決とほぼ同様の内容ですが、指摘された事実が単に「虚偽」と「一見して明白に虚偽」とでは、ニュアンスが違うように思われます。
 いずれにしろ、通常の名誉毀損事件とは異なり、既に死亡している人についての歴史の論考では原告側に「虚偽」の立証責任があることに変わりありません。歴史の論考で名誉毀損が成り立つ条件は、かなり厳しいようです。
 なお、「本多氏の書いたことはいいかげんかもしれないが一見して明白に虚偽であるとはいえない」と判決が言っているわけではないので、お間違いなく。


             判 決 要 旨
第1 裁判所の判断(主文)
   原告らの請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
   被告株式会社毎日新聞社(以下「被告毎日」という。)の前身である東京日日新
  聞は,昭和12年11月30日から同年12月13日まで,4回にわたり,故向井
  敏明少尉及び故野田毅少尉による,いわゆる「百人斬り競争」を掲載した(以下
  「本件日日記事」という。)。
  被告本多勝一(以下「被告本多」という。)は,被告株式会社朝日新聞社(以下
  「被告朝日」という。)の出版に係る書籍(「中国の旅」,「南京への道」等)及
  び被告柏書房株式会社(以下「被告柏」という。)の出版に係る書籍(「南京大虐
  殺否定論13のウソ」)において,上記「百人斬り競争」について言及した。
   向井少尉の遺族である原告田所千恵子及び原告エミコ・クーパー並びに野田少尉
  の遺族である原告野田マサは,本件各書籍が,両少尉の名誉を毀損するとともに,
  原告らの名誉を毀損し,あるいは,原告らのプライバシー権を侵害し,原告らの両
  少尉に対する敬愛追慕の情を侵害したとして,また,本件日日記事について,虚報
  であることが明らかとなったにもかかわらず,被告毎日がそれを訂正せず,その不
  作為によって両少尉の名誉を毀損するとともに,原告らの名誉を毀損し,あるいは,
  原告らの両少尉に対する敬愛追慕の情を侵害したとして,人格権侵害の不法行為に
  基づき,被告朝日及び被告柏に対し,本件各書籍の出版,販売,頒布の差し止めを
  求めるとともに,被告らに対し,謝罪広告の掲載及び損害賠償金の連帯支払を求め
  た。
第3 当裁判所の判断(理由)
 1 被告本多,被告柏及び被告朝日に対する請求について
  (1) 本件各書籍のうち,一部のものは,両少尉を匿名で表記しているものの,
  「M」「N」が本件日日記事において「百人斬り競争」を行ったと報じられてい
  たこと及び南京裁判で死刑に処せられたことを具体的に摘示しており,本件日日
  記事に掲載され,南京裁判で処刑された「M」「N」は両少尉以外にいないもの
  とみられるから,この程度の記載であっても,両少尉を十分特定し得るものと認
  められる。
  (2) 本件各書籍には,両少尉が,上官から,100人の中国人を先に殺した方に賞
  を出すという殺人ゲームをけしかけられ,「百人斬り」「百五十人斬り」という
  殺人競争として実行に移し,捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる「据え
  もの斬り」にするなどして殺害し,その結果,南京裁判において死刑に処せられ
  たといった事実の摘示がなされていると認められるところ,両少尉が,「百人斬
  り」と称される殺人競争において,捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる
  「据えもの斬り」にするなどして殺害したとの事実は,いかに戦争中に行われた
  行為であるとはいえ,両少尉が戦闘行為を超えた残虐な行為を行った人物である
  との印象を与えるものであり,両少尉の社会的評価を低下させる重大な事実であ
  るといえる。
 (3)そこで,本件摘示事実が,その重要な部分について一見して明白に虚偽である
  といえるか否かについて検討するに,?本件日日記事は,両少尉が浅海記者ら新
  聞記者に「百人斬り競争」の話をしたことが契機となって連載されたものであり,
  その報道後,野田少尉が「百人斬り競争」を認める発言を行っていたことも窺わ
  れるのであるから,連載記事の行軍経路や殺人競争の具体的内容については,虚
  偽,誇張が含まれている可能性が全くないとはいえないものの,両少尉が「百人
  斬り競争」を行ったこと自体が,何ら事実に基づかない新聞記者の創作によるも
  のであるとまで認めることは困難であること,また,?被告本多において両少尉
  が捕虜を惨殺したことの論拠とする志々目彰らの著述内容等についても,これを
  一概に虚偽であるということはできないこと,さらに,?「百人斬り競争」の話
  の真否に関しては,現在に至るまで,肯定,否定の見解が交錯し,様々な著述が
  なされており,その歴史的事実としての評価は,未だ,定まっていない状況にあ
  ると考えられること,以上の諸点に照らすと,本件摘示事実が,一見して明白に
  虚偽であるとまでは認めるに足りない。
 (4) したがって,被告本多,被告柏及び被告朝日に対する各請求は認められない。
2 被告毎日に対する請求について
 (1) 上記のとおり,現時点において,本件日日記事が虚偽であることが明らかにな
  ったとまで認めることはできないというべきであるから,被告毎日に対する請求
  は認められない。
 (2) さらに,原告ら主張に係る不作為の継続的不法行為は,被告毎日による本件日
  日記事の発表という先行する作為が違法であることを前提として,その違法状態
  を是正しないことをもって不法行為の内容としているものと認められるから,当
  該作為である本件日日記事の発表が終了した日をもって民法724条後段の除斥
  期間の起算点とすべきであり,本件日日記事の発表は,遅くとも昭和12年12
  月13日に終了しているから,同日から20年をはるかに超えた本訴提起の時点
  においては,同条後段の除斥期間を経過したものであると認められる。